情報技術のめざましい進化は、営業の現場にも影響を与えています。顧客自身が簡単に情報を収集できるようになったことで、営業パーソンからの課題解決の提案を必要としなくなってきているのです。
日々顧客にアプローチをするなかで、従来のやり方が通用しにくくなっていると感じる人も多いのではないでしょうか。
今回はそのような状況から生み出された新しい営業スタイル、インサイト営業の概念やメリットを解説します。
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インサイト営業とは
営業職であっても、インサイト営業という言葉を耳にしたことがない人もいるでしょう。インサイト営業は、時代の変化によって新たに注目されるようになった営業スタイルです。
まずは基礎知識として、インサイト営業とは何かを理解しておきましょう。ここでは従来主流であったソリューション営業との違いも解説します。
インサイト営業の概念
インサイト営業とは、顧客自身がまだ気づいていない課題を指摘し、その解決策として自社の商品・サービスを提案する手法のことです。
潜在的な問題を見抜き、顧客にそのリスクを説明するところからスタートするので、ハイレベルな営業スキルが求められます。一方で、インターネットで検索しただけでは解決しない根源的な課題を解決できるため、情報があふれる現代においても有効な営業方法といえるでしょう。
ソリューション営業との違い
ソリューション営業とは、顧客とのコミュニケーションを通じてニーズや課題を理解し、解決策として商品・サービスを提案する手法のことです。
顧客が自身で解決策を見つけられない場合には有効ですが、現在ではあらゆるビジネスの課題と解決策をインターネット上で見られるため、顧客にとってのメリットが薄れつつあります。
解決策のみを提示するソリューション営業と違って、課題と解決策をワンセットで提示するインサイト営業は、顧客にとってより価値の高い情報が得られる利点があるのです。
インサイト営業のメリット
顧客獲得の競争が一段と激しくなった現在、インサイト営業の導入によって得られるメリットに注目が集まっています。インサイト営業の強みは、主に以下の3つです。
- 競合が生まれにくい
- 優良顧客になりやすい
- 受注率も高い
それぞれ詳しく解説します。
競合が生まれにくい
インサイト営業は、ゼロから新しいニーズを生み出す営業方法です。そのため他社との競合が生まれにくく、自社の商品・サービスが独占できるメリットがあります。
現在では国内の市場が縮小し、あらゆる分野で競合する商品・サービスがあふれる時代になりました。トレンドなどから新たなニーズが生まれても、それに合わせて商品・サービスを開発する頃には、すでに市場はレッドオーシャンとなっています。価格競争に巻き込まれ、結果として十分な利益が上げられないのが実状です。
インサイト営業は、自社発信で新たなニーズを生み出すため、競合他社が参入してくる前に顧客と安定した関係を築くことができます。価格の安さではなく、本質的な課題を指摘する点に価値があるので、他社が入り込む余地も少ないでしょう。
優良顧客になりやすい
インサイト営業によって獲得した顧客とは、良い関係を築きやすいのも重要なポイントです。
従来のソリューション営業では必要な解決策が明らかになっているため、顧客は数ある商品・サービスのなかから選ぶ立場にあります。結果として顧客優位な取引となり、値引きを求められたり、いつ他社に乗り換えられるかわからなかったりといった悩みが生まれます。
対するインサイト営業は、顧客にとって必要な解決策を提示してくれるのが自社だけという状況であり、対等な関係を築きやすくなります。他社にはできない提案をしてくれる取引先として信頼を得て、長期的な取引が見込めるでしょう。
受注率も高い
インサイト営業は、商談前の分析が正確であれば受注率が高く成果を上げやすい営業です。これは顧客にとって、提案された商品・サービス以外に解決策の選択肢がないためです。
ソリューション営業の場合は、課題を解決するための商品・サービスが他にも数多く存在し、提案された契約で決めてしまってよいのか迷う余地があります。もっと品質の優れたものや安価なものがあるかもしれないと考え、即決を避ける可能性が高いでしょう。
しかしインサイト営業では、顧客は自身が気づいていなかった課題を指摘されるため、他の選択肢が視界に入っていません。加えて、それだけ自社を理解している営業への信頼も高まり、スムーズに成約にいたる傾向にあります。
インサイト営業のデメリット
インサイト営業は売上の大幅な向上も期待できる一方、デメリットも存在します。インサイト営業に取り組む前には、以下の2つに注意しましょう。
- 洞察力が求められる
- 属人的になりやすい
それぞれ詳しく解説します。
洞察力が求められる
インサイト営業の大きなデメリットとして、ハイレベルな営業スキルが必要なために誰でもできるわけではないことが挙げられます。特に、顧客の潜在的な課題を正確に突き止める洞察力は必須の能力です。
ターゲットの納得を引き出すには、業界の特性や動向をよく理解したうえで課題を洗い出す必要があるので、経験値の少ない営業メンバーには難しいでしょう。
洞察力は、一朝一夕に身に付くものではありません。インサイト営業を実践するためには、ベテランの営業人材が在籍しているか、あるいはそうした人材を外部から呼び込む必要があります。場合によっては、営業代行やコンサルティングなどのサービスを利用するのがよいかもしれません。
属人的になりやすい
インサイト営業は型どおりに進む営業ではないので、個々の営業メンバーのスキルに頼らざるを得ないのも難点です。営業のプロセスも属人的になりやすく、マネジメントが難しいでしょう。
インサイト営業の成否は大部分がターゲットの分析に拠っていて、営業トークも結果によって変化します。チーム全体でトークスクリプトを共有し、受注率の高いアプローチを再現するという現代の合理的な営業戦略には不向きなのです。
属人的で再現性が低い営業は、成果が安定しません。インサイト営業はできる人材にだけ任せればよいという考え方もありますが、その人材が退職するとノウハウも失われてしまいます。継続的にインサイト営業に取り組むには、対応できる人材は長期的に育成する必要があるでしょう。
インサイト営業はどのように行うのか
インサイト営業は、顧客自身も気づいていない課題を掘り起こさなくてはなりません。そのため、ソリューション営業に慣れている企業にはハードルの高い手法です。
具体的な営業の進め方は業界や商品・サービスによっても異なりますが、インサイト営業に取り組む際は以下の2つのポイントを意識してください。
- 顧客企業のミッションを理解する
- 押し売りはしない
それぞれ詳しく解説します。
顧客企業のミッションを理解する
インサイト営業で顧客の潜在的な課題を見つけるには、まず相手企業の理念やミッションからアプローチするのがおすすめです。
一般的な営業では、すでに顧客の目の前に顕在化している課題に目を向けます。しかし、売上減少やシステムの不便さなど差し迫った問題であれば、顧客は外部の人間に分析してもらう必要などなく、すでに解消に向けて動き出しているでしょう。インサイト営業はもっと視野を広げ、顧客企業の社会的な目的からアプローチしていきます。
経営者のなかには、社員が目の前の売上だけに追われて、事業本来の目的を見失っている現状に危機感をもっている人も多くいます。企業の理念やミッションに立ち返るために、どのようなツールが必要であるかというアプローチは、そのような経営者の心に響きやすいでしょう。
押し売りはしない
インサイト営業で気をつけたいのは、顧客が納得していない状態で押し売りのような形になることです。
顧客がまだ認識していないニーズに基づいて営業をかけるのですから、まずは顧客の置かれた状況を丁寧に説明し、課題に気づいてもらう必要があります。この工程をいい加減にして商品・サービスのアピールに力を入れると、顧客からすれば不要なものを強引に売りつけられているのと何ら違いはありません。
押し売りによって顧客との信頼関係が崩れると、修復はかなり難しくなります。インサイト営業のように、アドバイザーとして顧客に寄り添うスタイルの営業であればなおさらです。あくまで有益な情報を提供するスタンスでアプローチしましょう。
インサイト営業の成功事例
次にインサイト営業の一例として、1950年代のアメリカにおけるフォルクスワーゲンの販売戦略を紹介します。
当時のアメリカでは「車は大きければ大きいほど良い」という価値観が浸透しており、フォルクスワーゲンの小型車の売上は伸び悩んでいました。大型車のほうが見映えが良いことから、車に憧れる人々の心を掴みやすかったのです。
しかしフォルクスワーゲンは「実際使用するときには、小型車のほうが便利な場面もある」という消費者の潜在的なニーズに目をつけました。そこで「Think small.(小さく考える)」というキャッチコピーを打ち出し、小回りがきくことや省スペースであることなど、小型車の利点に消費者の目を向けさせたのです。
現在でもフォルクスワーゲンの小型車ビートルは、普遍的な人気を誇っています。このようにインサイト営業に成功すれば、その分野で自社のブランドを確固たるものとして確立しやすくなります。
インサイト営業に必要なスキル
インサイト営業を実行するには、いくつものスキルが必要になります。なかでも特に重要なのは、ヒアリング力や情報収集力といった顧客の課題を分析するための情報を得る力です。
インサイト営業が成功するかどうかは、提示した課題が顧客の納得を引き出せるかにかかっています。的を得た分析をするには、価値ある情報を多く集めなくてはなりません。業界全体の動向はもちろん、顧客企業の内情までリサーチできる能力が必要です。
もちろん集めた情報から仮説を組み立てるには、論理的思考力も求められます。インサイト営業では商談に臨む前の準備段階が重要であり、トークのスキル以上にリサーチや分析の能力が問われるのです。
まとめ
ビジネスを取り巻く環境が激変するなか、営業の手法にも変化が求められています。今後はインサイト営業のように、顧客の潜在的ニーズにまで深く切り込むことが必要となるでしょう。
これまでソリューション営業しか経験がない企業にとって、インサイト営業は未知の領域です。従来の営業スタイルを一新して、一からノウハウを積み上げていかなくてはならないでしょう。
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